テレビ局管理職×コーチング。内側から美しさが輝く女性を増やしたい
幸せな方向に当たり前のようにエネルギーを注げる社会
テレビ局で管理職として働く黒井律子さん。
ロールモデルのいない環境で25年間以上走り続けてきた。
様々なストレスや葛藤を抱えながらも脳科学・心理学・NLP・コーチングを学び、現在は女性活用にフォーカスし、職場でのコーチングを取り入れたチームビルディング、社外でのコーチングを行っている。
律子さんが歩んできた軌跡、コーチングとの出会い、そして“幸せな方向に当たり前のようにエネルギーを注げる未来”への想いについて伺いました。
コーチングが自分を変えてくれるんじゃないか
管理職として働いていますが、会社でコーチングを受ける機会、学ぶ機会はなかったですね。
マスコミ業界、特にテレビ局では「見て学べ」という価値観が強くて、“自分のやり方”があることがアイデンティティとされていたので。
管理職研修はありますがチームビルディングやコンプライアンスをテーマにしたものがほとんどで、コーチングや1on1に焦点が向くようになったのは、会社の人事制度が変わり始めたここ1、2年です。
律子さんが最初にコーチングと出会ったのは、20年以上前。
「当時営業職に就いていたんですが、もっと営業成績を上げるにはどうすればいいか考えている時、コーチングやNLP(神経言語プログラム)をかじっていました。その時、3ヶ月間のキャリアコーチングを受けました。
当時は『コーチングが自分を変えてくれるんじゃないか』と思っていたので、劇的に変わることはありませんでしたね。コーチングはメジャーでもなかったですし、お金も結構かかったので、結局やめちゃった、というのが最初の出会いでした」
もう完全に自分ではどうしようもなくなった

2回目の出会いは40代後半の頃。もう完全に自分の中でどうしようもなくなったタイミングだったという。
「結婚して家庭ができて子育てをして。毎日時間に追われて、何をしているのか分からない。全てが中途半端で思い通りにいかない状況でした。そうなると、弱いところにしわ寄せが来ちゃうんですよね。
子供に当たったり、旦那さんに文句を言ったり。仕事は夜中でも電話を取って即出勤するような緊急対応が多い部署だったので、すごく忙しくて気も抜けない。ただ生きているだけだと感じていました。
そうして、自分が壊れるか病むか、家がぐちゃぐちゃになるかだというところまで追い込まれていました。
仕事は百歩譲って上手くいかなくても、『このままだと子供の成長にすごく悪影響があるんじゃないか』と思いました。更に、弱いところに当たってしまう自分への自己嫌悪が繰り返されて、これはまずいなと思った時、コーチングを思い出しました。
実は、病院には行きたくなかったんです。
『私はもっと上を目指したい』と思った瞬間、パッと浮かんだのがコーチングだったんです。それで、まずは受けてみようと思ったのが、2回目の出会いでした」
ロールモデルがいない辛さを抱えながら

ロールモデルがいない中、律子さんは必死に働き続けてきた。
「結婚して子供がいて、それなりに中心になってバリバリ働いている女性はすごく少なかった。男性並みに働いて、華やかな場所で発散して、でも地味で泥臭い仕事もする。そういうバランスを上手く取って働いている女性は、独身か結婚しても子供がいらっしゃらない方が多かったですね」
世間的には華やかで女性が多く見えるマスコミ業界だが、2022年、東京キー局5社における女性の比率は約2割だった。
「女性の採用比率が5割前後になってきたのは、ここ3~4年のことです。女性がフォーカスされがちですが、実はめちゃめちゃ男性社会。ずっとロールモデルがいないと思って過ごしてきました」
「どんなに努力しても、仕事と子育てを両立することは相当なストレスになっていましたね。仕事後に飲みに行っても、翌朝私は子供のお弁当を作ってから出社している。でもそんな素振りは見せられない。
女性の働き方や育児の苦労に対するイメージや理解が追い付いていませんでしたからね。30代で結婚してから10年以上、ニコニコしながら、女の子らしく振舞う時代を過ごしてきましたが、ロールモデルがいないことは辛かったですね」
それでも病院やカウンセリングを受診することには抵抗感があった。
「実際に働くことが難しくなって精神科を受診する社員もいましたが、私にとっては、病院はなんとなく敷居が高かった。本を読んだり部下を見る中で、『私は違うんじゃないか』と思っていたんです。
もちろん社内には産業医の先生もいらっしゃるんですが、管理職として部下のケアもしていたので、自分が医者にかかることにはハードルがありました」
自分自身のために学びたいと感じた

実際にコーチングを受け、律子さんは内面の明らかな変化を感じるようになった。
「コーチングでは、徹底的に自分自身と向き合う瞬間が訪れます。
向き合って、内省して、その気持ちを言語化してコーチに伝えなきゃいけない。こういった作業をコーチと一緒に行うことで、『人生どうするんだ』というところまで深く内省することができました。
結果的に、家族や子供への向き合い方、会社での過ごし方が大きく変わりましたね。対抗心やネガティブな感情も少なくなって、私自身の在り方が本当に変わりました。
目標達成やコミュニケーションにも役立った。
「迷っているところから自力で飛び出す術、人の話を聞くだけじゃなく、人を受容することを学びました。落ち着いて人生を歩めるようになったというのが大きな変化でした。
コーチングを受け内面の変化を感じるうちに、『もっと理論から学びたい』 『自分で自分を整えられるようになりたい』と感じるようになりました。
自分を整える方法を身に着けられれば、この先の人生でいい“整い”ができるんじゃないかと感じたんです。なのでスタートは、誰かのためというより自分自身のために学び始めました」
「実は以前は家族にさえも本当の自分を出せなくて。いつも1人になりたいと思っていました。
それが1年半前、劇的に変わったんです。家族で過ごすことが楽になって、周囲の人とも安心して過ごせると気付いた時、周りの世界がガラリと変わりました」
内面と外の世界の劇的な変化を感じた時、律子さんの意識は外の世界へと広がっていった。
これはもう、私だけの問題じゃない

「マスコミ業界で働く女性に意識が向くようになりました。
マスコミ業界は、私にとってはとても生きにくい環境でした。それが今こんなに楽になって、生きやすくなった。そのうえ新しい環境に飛び込む勇気も湧いてくる。
だったら、この術を伝えたほうが絶対に良い。それが私にできる社会貢献だと思ったんです。
上手く生きて行けずにもったいない扱いを受けて、本来の能力を発揮できない、そんな優秀な女性がたくさんいます。
コーチングでそういった状況を解消できれば、彼女たちの人生も、その周りも、会社も、社会も良くなっていく。これはもう、私だけの問題じゃないなと思って。
一人一人が活躍できるチャンスを増やしていければ、日本が良くなっていくんじゃないかと考えています」
心理的安全を感じられる環境

律子さんは現在、管理職として職場でのコーチングを取り入れている。
「私は新設部署にいるので、チームビルディングとしてのコーチングをすごく意識しています。コーチング要素を取り入れながらコミュニケーションを取ることで、相手の考えを引き出しやすくなりました。
社員同士も心理的安全を感じられるみたいで、年齢の差もあまり関係なく意見を言い合える状況が作れていると思っています。みんな肩の力を抜いてお互いを攻撃しないので、すごく楽なんじゃないかと思います。
心理的安全が確保されれば、余計なことを考えずにクリエイティビティを発揮できる。それって成果を上げるうえですごく近道だと思います。
セルフコーチングもできるようになりました。
実は私は感情が強く出てしまうタイプだったんですが、いつも自分の在り方を自問自答して向き合うことで、そういった面もコントロールできるようになりました。自分を含めて、チームを作っていくのに非常に有効だと感じています」
幸せな方向に当たり前のようにエネルギーを注げる社会

「テレビって大衆向けなのに、それを作るテレビ局の女性の割合は2割程度。社会の女性の比率とは違うバランスでものを作るって、時代に合っていかないと感じています。
働き方が特殊なマスコミ業界で女性が安心して実力を発揮できる方法を模索することは、テレビ局の生き残りにも影響してきます。もちろんそれは女性だけじゃなくて、多様な視点を取り入れる必要があるということ。
色々な報道をしていても、テレビ局側がまだまだ時代が求めるレベルに到達していないのが事実です。
女性はライフステージの変化に合わせて、働き方を変えていかなくてはいけない。人材育成や人員配置、コミュニケーション能力を活用して、女性が働き方をシフトしていける組織作りや研修を行っていきたいですね」
特に女性活用にフォーカスするのは、
「女性が安心安全に働けて、経済的にも自立して、そしてご機嫌であること。そのことが子供たちに与える影響って、すごく大きいと思うからです。子どもたちの心身が健康じゃないと、結果的に未来の日本社会に悪影響を及ぼしてしまう。
なので女性の活躍は自分の会社だけに留まらず、社会にとっても大切なことだと思っています。
みんなが余計なところにエネルギーを注がなくてもいい社会、もっと幸せな方向に当たり前のようにエネルギーを注いで向き合える社会になって欲しいと思います」
「コーチングは私が生きていくうえで必要なものだと思っています。今後は会社の中でもできることをやっていきたいし、会社とは別のところでも活動の輪を広げて行きたいですね。
なかなか整理ができない方、モヤモヤしている方、もう少し先を行きたい方、自分と向き合うことで違う未来を見つけられるんじゃないかと思っている方に質問を投げかけて、新たな気付きを得てもらいたい。
そうして、今ある場所からちょっと遠い場所に歩みを進める、美しい女性が増えて欲しいと思っています。
美しいというのは、“内面的な美しさ”。
これって女性の特性だと思うんです。内側から美しさが輝く女性が増えれば、日本も世界ももっと平和になると思います。そういう志を持ってコーチングに向き合っていきたいですね」
黒井律子
- 現役テレビ局管理職ママ 兼 ライフキャリアコーチ
- 自分の思い込みを解放して、しなやかに生きるエンパワーメントコーチング