アート✕コーチング 西山裕美さん

誰もが夢中になれる自己表現の時間を。

「お絵描きのハードルを下げることで、楽しく、自己肯定感も上がる気持ちを感じて欲しい」

高知市で絵画造形教室・お絵描きひろばを主宰されている西山裕美さん。

結婚を機にデザインに関わる仕事を離れ、高知へ移住し出産、そして育児へ専念。
一時はアイデンティティを見失いながらも、アートセラピーを学び絵画造形教室・お絵描きひろばをオープン。

さらにコーチングを学び、自分の可能性を“すべて活かし続ける”裕美さんの、これまでの軌跡と今後の展望について伺いました。

『私は誰?』と感じる10年間

「大阪生まれ大阪育ちで、結婚を機に高知に来て、すぐに妊娠・出産しました。子育てを10年、ボランティアを10年、そして絵画教室を10年やって、今に至ります。」

裕美さんにとって、絵を描くことはアイデンティティだった。

「幼い頃からとにかく絵を描くことが好きで。家族で旅行に行っても、お土産屋さんでまずノートと鉛筆を買ってもらうような子でした。とにかくずっと描いていたかったんです。

高知に移住する前に勤めていたアシックス本社では、ウェア部門でTシャツやロゴマークのデザインを担当しました。辞める前の年には、社内の小さなブランドを統合して、誰の目にも“アシックスだ”と分かるようにするプロジェクトに携わりました。毎日夜中まで残業してたんですが、プロジェクトでのTシャツは全て私がデザインさせてもらいました」

結婚後は高知で育児に専念。しかし、時にアイデンティティを見失う時期もあったという。

「育児中は絵を描くことが仕事に繋がらなかったので、すごく悶々としました。仕事を手放して、絵を描く自分を知っている人が誰もいない場所で過ごしているうちにアイデンティティがなくなって、『私は誰?』と感じる10年間でした」

子供が大きくなると、小学校や幼稚園でのボランティア活動をスタート。小学校の絵本読み聞かせサークルでは新聞風お便りを作成し、10年間毎週発刊した。幼稚園では広報誌に乗せた役員の似顔絵が評判となり、100人近い子供たちの似顔絵を無償で描き切った。

「みんな、似顔絵描いて欲しいんですね。ほかのお母さん方は部屋に集まってお喋りしながらバザーの小物を作っているのに、私はひとり修行のように毎日毎日子供の似顔絵を描いてるんです。『みんなとお喋りしたいよ~』とか思いながら描いてました」

“自分の可能性全部使ってみたい人へ”

そして2013年、子供が大きくなったタイミングでお絵描きひろばをオープン。軌道に乗せようともがく中で、吉川ゆりのFacebookグループに出会った。

「最初の5年くらいはそんなに広まらなかったんです。でも入った子はずっと楽しく続けてくれてるから、やってることに間違いはない。なのでまずは起業塾に入りました。そこで発信の仕方を学んで、更に自分自身の深掘りをして。そしたらちょっと波に乗った感覚があって、お絵描きひろばの体験に来てくれる子が増えたんです。

で、次のステップを探している時、ゆりさんのFacebookグループで流れてきた“自分の可能性全部使ってみたい人へ”っていうキャッチコピーが目に入って、グッときた。『可能性全部使いたい、したいこともいっぱいある』 そう思ったんです。1年くらいワークショップに参加した後、コーチングスクールを受講しました」

当時は自分の可能性を活かしきれていない感覚があった。

「したいことはいっぱい浮かぶんですけど、それを実現している自分と今の自分との間に距離を感じていました。ブレーキを踏みながらアクセルを踏もうとしているような無理を感じていて。自分にストップをかけている根っこの部分をほぐさないと何もできないし、次に行けないんじゃないか。そんな感覚がありました」

そしてコーチングスクール受講を機に、裕美さんは次のステップへと大きく飛躍してゆく。

「一番の変化は、大きな教室に移転できたことです。引越しをしたいとは思っていたんですが、今よりちょっとだけ広くて、家賃も多少上がる程度の、自分の手の届く範囲内で考えてたんです。そしたら思いのほかいい物件に出会ってしまって。でも内装工事などの初期投資が必要だし、家賃も今までよりかなり高い。『自分にはやっていけない』ってめちゃくちゃビビッていました。

そんな時コーチング練習である方が、『じゃあその教室に移ったとして、そこにいる裕美さんってどんな顔してる?』って、未来の自分をイメージさせて下さったんですよね。

そしたら、めっちゃニコニコで。私もだし、来てる人もニコニコ。すごく幸せなイメージが浮かんだんです。 『これはもうやるしかないわ』って、そこでスイッチが切り替わりました。その後はトントントンと話が進んで。私一人がブレーキを掛けていたけど、周りはもう「押せ押せ」っていう感じでした」

 物件の契約や配線工事など、不思議な巡りあわせと人々のサポートに助けられ、2024年8月に教室の移転が完了。10月に開催したハロウィーンパーティーは昨年の倍の60名が集う一大イベントとなった。今や、なかなか空きが出ない、予約の取れない教室だ。

自分には価値がないと責めて傷付くことがなくなって、すごく楽になりました

「うちは親が商売をしていたので忙しかったんですが、小さい頃から喜んで貰えるのが嬉しくて、よくお手伝いをしていました。でもそれがいつの間にか、『役に立たないと愛されない』という思い込みになっていました。この思考にはアートセラピーを勉強した時に気付いていたんですが、思い込みに気付いて自分を癒してもまた同じ思考を繰り返してしまって、疲弊していました。

コーチングスクールでは“自分の反応は事実ではない”という理屈を学んだんですが、コーチング練習をしているうちに、ある日突然、スパーンとそのことが腑に落ちました。

それまでは人に評価されなかったり理不尽に怒られたら、『自分が悪いんかな』って落ち込んで、『いやいや、それは考え方の癖だから、そうじゃない』と認知しなおして、傷を癒していました。でも、『自分に価値がない』と思って落ち込むのは私の反応であって、事実じゃない。相手の態度によって自分の価値は変わらないんだっていうことが、ある日ストーンと腑に落ちたんです

やりたいこと、提供したいことを提供して、それに対してどんな反応や評価が返って来ようとも、『自分の価値には関係がないんだ』と思えるようになったので、すっごい楽になったんですよ。

人間関係や仕事面でも変化がありました。

例えば相手が怒っている時でも、自分の価値と相手の反応は別問題だと受け取ることができるようになったので、相手の感情の波に飲まれて傷付くことがなくなりました。

お仕事で提案が通らなかった時も、以前なら『自分に価値がないからだ』と自分を責めていたんですが、その必要は全くなくて、提案自体を改善すればいいと思えるようになりました。

余計に凹んだりせずに、やることをやればいい。周りの反応と自分の感情をパッと分けれた感じですね。感情の波が必要ないと思えるようになって、すごく楽になりました」

コーチングを学んで気が付いた、アートとの共通点

「子供って絵を描く時、描きたいところから始めるので完成図って頭にないんですよね。特に夏休みの宿題ですごく大きな絵を描かなきゃいけない時なんかは、描きたいところから描き始めたら、まだまだ余白がある。

でも次にどうしたらいいのか分からなくて、時間も無くなってぐちゃぐちゃに塗っちゃう。それで、『自分ってなんて下手なんだろう』って落ち込んでしまう。そんな負のサイクルがよくあるんです。

今年のお絵描きひろばでは、お子さんの描きたいイメージ図や描きかけの絵を事前に写真で送ってもらったんですが、それを見ると私には、その子の絵のいいところがすごく見えるし、描きかけであっても完成図までパーってイメージが浮かぶんです。

それを元に完成図のイメージや描きたいものを質問して、私がイメージと完成図を組み合わせた画像をiPadで何種類か作って見せて。『どんなふうにしたい?近いイメージはある?』と聞いて最終イメージを一緒に作ります。そのうえで『次はここまでやろうか、ここまで塗ろか、虹が描きたいんやったら描いておこうか?』って手順にしてあげたんです。

そしたらゴールまでの道筋を子供も分かっている状態になって、集中が切れずにすごく大きな作品をみんな仕上げてくれました。

ゴールを見せて、ステップを一緒に考えて、それに向かって今やることを決める。一歩ずつ進むというプロセスがコーチングと共通していて腑に落ちたし、子供たちにも受けたのですごく嬉しかったです」

裕美さんには、子供たちだけじゃなく大人に、それも普段絵を描かない人たちにもアートを広めたいという思いがある。

「例えば、親子行事でお子さんと一緒にお母さんにも参加して貰った際、お母さんの方が夢中になられて、『ストレス解消になってすごく気持ちよかった』と言って下さることがありました。

その時、大人にこそアートの時間が必要なのかもしれないと思ったんです。それから大人向けのサービスの提供を始めて、オンライン講座“大人のわがままアートプログラム”を作りました」

もっとわがままになってほしいなと思って。

「皆さん自分のことを後回しにしがちで。特にお母さんって、『じゃあ自分は今何したい?』って聞かれると、思いつかない方も結構いらっしゃるんです。でも仕事や子育てで一区切りついた時、何もすることがない状態になるのは、生きていくうえですごくもったいないかなって思うんです。

アートって、次に何色を選ぶのか、どんな線を書くのか、常に選択の連続です。
常に自分に聞かないと作品が仕上がらないんですよ。ぐちゃぐちゃに書くだけでもいいんです。自分にすごく集中する時間になるので、終わった後は『頭空っぽになりました』っていう感想をいつもいただきます。

それって心にものすごく作用すると思うんです。

そんなアートのプログラムと、そこから更に生き方にも反映させて行けるように、コーチングを組み合わせたプログラムを提供できれば、すごく強力なんじゃないかと思っています」

ゆりかごから墓場まで。誰もがアートを楽しめる場所を。

「せっかく教室が広くなったので、これからは親子ワークショップもやりたいですね。乳幼児向けクラスでは手型を付けまくったり、親子でとにかく絵具とたわむれるような機会を提供して、みんなで楽しんでくれたらいいなと思っています。


とにかくお絵描きのハードルをすごく下げたい。『リアルに描かなくちゃ』って思うと『無理無理!』ってなりますけど、絵具とたわむれるだけなら誰でもできますし、絵の設計は私がデザイナーとしてサポートできます。

楽しんで、さらに作品も残せて、自分の作品を見るたびに『私こんなん描けるんや』っという自己肯定感が上がるような気持ちを、常に目にして頂くことが野望です

西山裕美